背中でランが泣いている気配がする。
服の裾をぎゅっと握り、額を背に押し付けて声を殺して泣いていた。
何を考えているんだろう、と口に出すことは出来ない。
多分、今気付かれることを望んでいないのだろう。
体格の良い俺と細身のラン。
二人で寄り添えばこのベッドの大きさなんて気にならないけど、この大きさでは俺が寝返りをうてばランは押しつぶされるだろうな。
気をつけて寝ないといけないと最初の頃は思っていたが、意識のない俺は律儀な奴でランを押しつぶすことはしないで抱き枕のように抱き締めることばかりだ。
寝ているふりをして抱き締めてしまおうか。
背中のぬくもりにそんな事を思う。
「・・・っ、」
泣き止む気配はない。
そういえば外は雨が降っているみたいだ。
雨音を一つ二つと数えてはみるが、ランのことが気になってうまく集中できない。
「・・・なあ」
「・・・!」
「振り向いてもいいか」
「・・・だめ」
「・・・ん」
鼻声で返され、俺はどうしたものかと空いてる自分の手をぎゅっと握る。
「なあ」
「・・・なに?」
「俺にしてほしいこと、ないか」
「もうちょっとだけ、このままでいて」
「もうちょっとでどれくらいだよ」
「わたしが、泣き止むまで」
「・・・わかった」
背中のぬくもりに俺は不本意な返事を返す。
雨音をもう一度数えてみる。
一つ、二つ・・・あ、また鼻すすった。
・・・いくつまで数えたっけ。
わかんなくなったじゃないかよ。
泣き止む気配のないランが、どんな顔をしているのかどうしても知りたくなって俺は振り返った。
「・・・っ!ヴィルヘルム・・・」
「ん」
涙の痕が残る頬を乱暴に指でぬぐってやると、そのままきつく抱き締めた。
こうした方が安心する。
「雨、ひどいな」
「・・・うん」
ゆっくりとランの腕が俺の胸に触れた。
「ヴィルヘルムの心臓の音、わかるね」
「・・・生きてるからな」
「そうだね・・・、うん。そうだよね」
甘えるようにすりよってくる。
ああ、どうやらうまく泣き止んだみたいだ。
「ヴィルヘルム」
「ん」
「あなたがいてくれて、私幸せだよ」
「ああ」
俺もだ、とうまく言葉に出来なくて俺は抱き締める腕に力をこめた。